1/f ゆらぎとは
音の大きさや電流の強さのように、時間とともに不規則に変わる量を「ゆらぎ」と呼びます。ゆらぎを、ゆっくりした変化(低い周波数)から速い変化(高い周波数)までの成分に分けて、それぞれの強さ(パワー)を並べたものをパワースペクトルといいます。
パワースペクトル が周波数 に反比例する、つまり
となるゆらぎを 1/f ゆらぎ(英語では 1/f noise)と呼びます。周波数が 2 倍になるとパワーは半分になるので、ゆっくりした大きな変化ほど強く、速い小さな変化ほど弱くなります。
1/f ゆらぎには、「周波数を 2 倍ずつ区切った帯(オクターブ)のどれをとっても、含まれるパワーが同じ」という性質があります。 から までのパワーは で、 によらないからです。ゆっくりした変化も速い変化も、どの時間の幅で見ても同じ割合でまじっている、と言い換えることもできます。
ノイズの色(ホワイト・ピンク・ブラウン)
1/f ゆらぎは、指数 を変えた仲間と並べると特徴がよくわかります。 の値によって、ノイズには色の名前がついています。
- ホワイトノイズ():どの周波数のパワーも同じです。すべての色(波長)の光が同じ強さでまじった白色光になぞらえた名前だと説明されます。前の値と次の値に関係がなく、細かく激しく変わります。
- ピンクノイズ():1/f ゆらぎのことです。ホワイトノイズより低い周波数が強く、光に例えると赤みがかることから、ピンクと呼ばれると説明されます。
- ブラウンノイズ():「ブラウン」は色の茶色ではなく、水に浮かぶ花粉の不規則な動きを記録した植物学者ロバート・ブラウンにちなむ「ブラウン運動」から来ています。前の値に小さな乱数を足し続ける酔歩(ランダムウォーク)で作れ、ゆっくり大きくさまよいます。
ピンクノイズは、ホワイトノイズのように細かく変わる成分と、ブラウンノイズのようにゆっくりさまよう成分の両方を、ちょうど中間の割合で持っています。ページ上部のツールでは、 を 0 から 2 まで 0.1 ずつ動かして、音と波形がどう変わるかを確かめられます。
パワースペクトルで見分ける
ゆらぎが 1/f かどうかは、パワースペクトルを両対数グラフ(横軸も縦軸も対数の目盛り)に描くとわかります。 なら なので、点が傾き の直線に並びます。
1 つ 1 つの周波数のパワーは、乱数のせいで大きくばらつきます。そこでツールでは、周波数を対数で等間隔の区間に分けて平均し、その点に直線を当てはめて を推定しています。当てはめでは、区間に入った周波数の数で重みをつけています。周波数が 1〜2 個しかない低い周波数の区間は、対数をとると平均より低めに出やすく、重みをつけないと が小さめに推定されるためです。ツールで作ったノイズの を推定した結果です。
| 指定した β | 推定した β(5 通りの平均) | 最小〜最大 |
|---|---|---|
| 0.00 | -0.01 | -0.02〜-0.00 |
| 0.50 | 0.49 | 0.48〜0.50 |
| 1.00 | 0.99 | 0.98〜1.00 |
| 1.50 | 1.49 | 1.48〜1.50 |
| 2.00 | 1.99 | 1.98〜2.00 |
推定値は指定した値に近くなりますが、乱数の種によって少しずつ違います。上の図の例では 0.99 でした。実際の測定データで を求めるときも、1 回の結果だけで「1/f だ」と決めつけず、データの長さや当てはめる範囲を変えて確かめることが大切です。
どこで見られるか
1/f ゆらぎが最初に注目されたのは、電子回路の雑音です。J. B. Johnson は 1925 年、真空管の電流の雑音を調べ、周波数によらない雑音(ショット雑音)のほかに、周波数が低いほど大きくなる雑音があることを報告しました。W. Schottky は翌 1926 年、この雑音を光のちらつき(flicker)になぞらえて「フリッカー効果」と名づけています。いまでは、この種の雑音は 1/f 雑音(フリッカー雑音)と呼ばれます。
その後、似たパワースペクトルを持つゆらぎは、電子部品に限らずさまざまな分野の測定で報告されてきました。M. S. Keshner(1982)は、そうした例と性質をまとめた総説を書いています。
音楽では、R. F. Voss と J. Clarke(1975)が、音楽や話し声の音の大きさのゆらぎ、そして音楽の音の高さ(メロディー)のゆらぎが、1/f に近いパワースペクトルを持つと報告しました。この研究については、後の「1/f ゆらぎと音楽」の節で詳しく紹介します。
ただし、身の回りのゆらぎがすべて 1/f というわけではありません。測る量や時間の範囲によって、 は 0 に近いことも 2 に近いこともあります。
フラクタルとの関係
パワースペクトルが のようなべき乗の形をしていると、「この時間の長さが特別」という目安(特徴的な時間)がありません。時間の目盛りを何倍に引き伸ばしても、振れ幅の目盛りを決まった割合で変えれば、統計的には同じように見えます。これは、部分を拡大すると全体と似た形が現れるフラクタルの自己相似性を、時間のゆらぎに当てはめたものです。
波形を 1 本の線の図形とみなすと、そのフラクタル次元を測ることもできます。 が大きいほど波形はなめらかになり、次元は小さくなります。ツールで作った波形を白黒の画像にして、画像のフラクタル次元を測るツールと同じ 2 値ボックスカウント法で測った値です。
| β | 波形の図形の次元(実測) |
|---|---|
| 0.00 | 1.876 |
| 0.50 | 1.858 |
| 1.00 | 1.777 |
| 1.50 | 1.621 |
| 2.00 | 1.419 |
| 2.50 | 1.230 |
ブラウンノイズ()の波形はブラウン運動の軌跡にあたり、そのグラフのフラクタル次元は理論上 1.5 です。実測値 1.419 はそれより少し小さく、ボックスカウント法が低めに出やすい傾向(フラクタル次元の求め方)と合っています。
2 次元に広げた例として、パーリンノイズの考案者 K. Perlin は、1985 年の論文で、周波数を 2 倍ずつ上げながら振幅を周波数に反比例させて重ねたノイズを「1/f」の信号と呼んでいます。
1/f ゆらぎを作る方法
このページのノイズは、2 つの方法で作っています。
周波数ごとに作って足し合わせる方法(ツールのノイズ)
1. 周波数ごとに、正規分布の乱数で振幅と位相を決める。
2. 振幅を 倍する(パワーは振幅の 2 乗なので、パワーが になる)。
3. 逆フーリエ変換で、時間のゆらぎに戻す。
J. Timmer と M. König(1995)が示した方法です。できたノイズは終わりと始まりが滑らかにつながる(周期的な)ので、音としてくり返し再生しても継ぎ目が聞こえません。
サイコロを足す方法(Voss の方法、メロディー)
いくつかのサイコロを用意し、1 個目は毎回、2 個目は 2 回に 1 回、3 個目は 4 回に 1 回……と、振り直す間隔を倍々にして、出た目の合計を使う方法です。間隔の長いサイコロがゆっくりした変化を、短いサイコロが速い変化を受け持つので、合計が 1/f に近いゆらぎになります。M. Gardner が 1978 年の Scientific American のコラムで、Voss の方法として紹介しました。
このページのメロディーでは、J. McCartney が 1999 年に提案した改良(1 回に 1 個のサイコロだけを振り直すように、振り直す順番をずらす)を使い、4 個のサイコロをそれぞれ 2 音・4 音・8 音・16 音に 1 回振り直しています。
| メロディー | 隣の音との差の平均(段) | スペクトルの傾き β |
|---|---|---|
| ホワイト | 4.98 | 0.00 |
| ピンク(Voss の方法・サイコロ 4 個) | 1.34 | 1.03 |
| ブラウン(1 段ずつ上下) | 0.67 | 1.86 |
ホワイトは毎回まったく別の高さに跳び、ブラウンは隣の高さへ少しずつ動き、ピンクはその間になります。周波数 1/256〜1/4 の範囲では、ピンクの傾きは 1.03 で、サイコロ 4 個の Voss の方法は 1/f をよく再現しています。ただし、いちばん高い周波数の近く(隣り合う音どうしの変化)では、サイコロを区切りよく振り直す影響で、傾きがやや急になります。
1/f ゆらぎと音楽
Voss と Clarke は 1978 年の論文で、音の高さと長さを 1/f のゆらぎで決めたメロディーをコンピューターで作り、ホワイトノイズや (ブラウン)で作ったメロディーと聞き比べてもらいました。報告によると、1/f のメロディーが最も好ましく聞こえ、ホワイトノイズのものは不規則すぎ、 のものは変化が少なすぎる(相関が強すぎる)と受け取られました。
一方で、この「音楽は 1/f ゆらぎに従う」という主張には疑問も出されています。N. Nettheim(1992)は、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、ショパンの楽曲の旋律を分析し、旋律のゆらぎは 1/f と の中間か、 に近いものが多く、音の長さのゆらぎはほぼ平らだったと報告しました。そして、Voss と Clarke の測定が何時間分もの放送をまとめて分析していたことや、旋律の高さを音声の信号から間接的に推定していたことを問題点として挙げています。
ページ上部の「ゆらぎのメロディー」では、3 種類のメロディーを実際に聞き比べられます。どれが好ましく聞こえるかは、ぜひご自身の耳で確かめてください。
「心地よさ」について
日本では、「1/f ゆらぎ」は心地よさや癒やしと結びつけて紹介されることがよくあります。しかし、このページで紹介した研究は、ゆらぎの測定(Voss と Clarke 1975、Nettheim 1992)と、作ったメロディーの聞こえ方の比較(Voss と Clarke 1978)です。
体や心への効果(リラックス、睡眠、集中など)については、このページでは扱いません。そうした効果を確かめるには、別の種類の研究(効果を比べる実験)が必要で、ここで紹介した研究からは言えないためです。このページのツールも、効果をねらったものではなく、ゆらぎの違いを音と図で確かめるためのものです。
よくある質問
ホワイトノイズとピンクノイズの違いは何ですか?
パワースペクトルの傾きが違います。ホワイトノイズはどの周波数のパワーも同じ()で、ピンクノイズは周波数が 2 倍になるごとにパワーが半分()になります。そのためピンクノイズは、ホワイトノイズより低い音が強く、高い「シャー」という音が弱く聞こえます。ページ上部のツールで、ボタン 1 つで聞き比べられます。
ブラウンノイズの「ブラウン」は色のことですか?
いいえ。水に浮かぶ花粉の不規則な動きを記録した植物学者ロバート・ブラウンにちなむ「ブラウン運動」から来ています。ブラウンノイズは、前の値に小さな乱数を足し続ける酔歩(ランダムウォーク)で作れ、パワースペクトルの傾きは です。
1/f ゆらぎの音楽は心地よいのですか?
Voss と Clarke(1978)は、1/f のゆらぎで作ったメロディーが、ホワイトノイズやブラウンノイズで作ったものより好ましく聞こえたと報告しています。ただし、実際の楽曲の旋律が 1/f に従うという主張には、Nettheim(1992)などの反論もあります。このページの「ゆらぎのメロディー」で、3 種類を聞き比べてみてください。
自然の音や身の回りのゆらぎは、すべて 1/f ですか?
いいえ。1/f に近いゆらぎはさまざまな分野で報告されていますが、測る量や時間の範囲によって、パワースペクトルの傾きは 0 に近いことも 2 に近いこともあります。1/f かどうかは、実際に測ってパワースペクトルを描いて確かめる必要があります。
このページの音はどうやって作っていますか?
ノイズは、周波数ごとに乱数で振幅と位相を決め、振幅を 倍してから逆フーリエ変換する方法(Timmer と König 1995)で、ブラウザの中で作っています。メロディーは、4 個のサイコロを足す Voss の方法などで音の高さを決め、ブラウザの音の機能(Web Audio)で鳴らしています。音のデータがサーバーへ送信されることはありません。
参考文献
- J. B. Johnson, "The Schottky effect in low frequency circuits", *Physical Review* 26 (1925), 71–85.
- W. Schottky, "Small-shot effect and flicker effect", *Physical Review* 28 (1926), 74–103.
- R. F. Voss, J. Clarke, "'1/f noise' in music and speech", *Nature* 258 (1975), 317–318.
- R. F. Voss, J. Clarke, "'1/f noise' in music: Music from 1/f noise", *The Journal of the Acoustical Society of America* 63 (1978), 258–263.
- M. Gardner, "Mathematical Games: White and brown music, fractal curves and one-over-f fluctuations", *Scientific American* 238(4) (April 1978).
- M. S. Keshner, "1/f noise", *Proceedings of the IEEE* 70 (1982), 212–218.
- K. Perlin, "An image synthesizer", *ACM SIGGRAPH Computer Graphics* 19(3) (1985), 287–296.
- N. Nettheim, "On the spectral analysis of melody", *Interface: Journal of New Music Research* 21 (1992), 135–148.
- J. Timmer, M. König, "On generating power law noise", *Astronomy and Astrophysics* 300 (1995), 707–710.
- K. Falconer, *Fractal Geometry: Mathematical Foundations and Applications*, Wiley(初版 1990).