反復関数系(IFS)とアフィン変換の基礎
反復関数系とは
反復関数系(IFS: Iterated Function System)は、平面の点を動かす規則(写像) の組です。各写像は図形を縮小して、どこかへ移します。
IFS から図形を作るには、次の操作を繰り返します。
図形 を全ての写像でそれぞれ写し、できた 個の像を合わせたものが次の図形 です。全ての写像が「縮める」写像なら、どんな図形から始めても、繰り返すうちにただ一つの図形 に近づきます。この を IFS のアトラクターと呼び、 自身は を満たします。「全体が自分の縮小コピーの集まり」という自己相似の性質が、この式にそのまま表れています。
この枠組みは J. E. Hutchinson が 1981 年の論文で数学的に整理し、M. F. Barnsley らが図形の作成や画像圧縮に応用して広めました。
シミュレーターの「ステップ表示」は、(初期図形)から を順に描いたものです。「カオスゲーム」は、同じアトラクターを点の動きで描く方法です(→ カオスゲームとは)。
アフィン変換の係数 a〜f の意味
このサイトの写像はすべてアフィン変換で、6 個の係数で決まります。
は平行移動です。原点 は に移ります。 は形の変え方を表し、代表的な組み合わせは次のとおりです。
- 縮小: 、。全体を 倍にします(例: で半分)。
- 縦横で違う倍率: 、、。横に 倍、縦に 倍します。
- 回転しながら縮小: 、、。反時計回りに 回転して 倍にします。
- 左右反転: の符号を反対にします(、)。
- 線につぶす: 、 のように、1 方向の倍率を 0 にします。バーンズリーのシダの茎はこの写像で作られています。
かつ (または かつ )のとき、写像は形を保ったまま縮小・回転・反転するだけの相似変換になります。全ての写像が相似変換なら、フラクタル次元を簡単な式で計算できます(→ フラクタル次元の求め方)。
(行列式の絶対値)は、写像で面積が何倍になるかを表します。カオスゲームで写像を選ぶ確率 の目安にも使います。
縮小写像と不動点定理
アトラクターがただ一つに決まるのは、バナッハの不動点定理のおかげです。
写像 が、どの 2 点の距離も 倍以下( は 1 より小さい定数)に縮めるとき、 を縮小写像と呼びます。縮小写像を何度も当てはめると、どこから始めた点も、ただ一つの点(不動点)に近づいていきます。距離が 1 回ごとに 倍に縮むので、近づく速さは指数関数的です。
IFS の操作「全ての写像で写して合わせる」も、図形どうしの距離(ハウスドルフ距離)を縮める縮小写像になっています。そのため図形の世界でも不動点定理が使え、初期図形によらずアトラクターがただ一つに決まります。ステップ表示で初期図形を変えても同じ形に近づくのは、このためです。
自分で係数を作るコツ
シミュレーターのカオスゲーム画面では、係数を自由に編集できます。うまく図形を作るためのコツをまとめます。
- まず相似変換で考える: 、 の形にすると、縮小率と回転角だけを考えればよく、形が予想しやすくなります。
- 縮小率は 1 未満に: 縮小率が 1 以上の写像があると、点が遠くへ飛んでいき図形になりません。シミュレーターでは「縮小写像でない」と表示されます。
- 面積の合計を意識する: 各写像の の合計が 1 より大きいと、コピーどうしが重なって塗りつぶされた形になりやすく、小さすぎるとまばらな点の集まりになります。
- 確率は面積比で: 係数を変えたら「確率 を面積比で自動設定」を押すと、点の濃さが均一に近づきます。
- プリセットを少しずつ変える: シダの 2 番目の写像の (回転の成分)を少し変えると、シダ全体の曲がり方が変わります。変えた図形は「この図形の URL をコピー」で共有できます。
数学的な解説
アフィン変換 の係数の意味
平面のアフィン写像は、6 個の係数 で表せます。
- (線形部分): 拡大縮小・回転・反転・せん断を表します。 のときは「縮小して回転するだけ」の相似変換です( なら反転を含む相似変換)。
- (平行移動): 縮小した部分像をどこに置くかを表します。
- 行列式 : 写像で面積が何倍になるかを表します。カオスゲームの確率 をこれに比例させると、点の濃さが均一になりやすくなります。 の写像(シダの茎など)は図形を線につぶすため、確率に最小値を設けます。
縮小写像とバナッハの不動点定理
完備距離空間 上の写像 が、ある定数 に対して次を満たすとき、 を縮小写像と呼びます。
バナッハの不動点定理によると、完備距離空間上の縮小写像 はただ一つの不動点 ()を持ち、任意の初期点 から作った点列 は で に収束します。距離は 1 回ごとに 倍以下になるので、収束は指数関数的に速く進みます。
参考文献
- J. E. Hutchinson, "Fractals and self similarity", *Indiana University Mathematics Journal* 30 (1981), 713–747.
- M. F. Barnsley, S. Demko, "Iterated function systems and the global construction of fractals", *Proceedings of the Royal Society of London A* 399 (1985), 243–275.
- M. F. Barnsley, *Fractals Everywhere*, Academic Press, 1988.